事務長もあらゆる場面で交渉が必要となります。いわゆる中間管理職である事務長は経営側と職員の間と綱引きがあり、上にも下にも交渉が必要となっています。基本は日本の法律があり、医療法人の内規があり、診療報酬毎のルールがありその中で業務をしているので駆け引きとは無用の世界なのかもしれません。しかしそのルールの中で最善を尽くさなければなりません。経営効率を上げたい上司、人を増やして仕事量を減らしたい従業員、また患者家族の要望、色々な場面で交渉が必要となります。また様々な会議など色々な場面で交渉術というものが必要であるとは感じています。
最近感じるのはトランプ大統領の交渉術の凄さです。対ロシア、中国、EU各国のそうそうたるトップたちと渡り合うのに誰であろうと自分のペースに持ち込みます。そして交渉の舞台を自分の土俵に乗せていきます。現状日本の首相の答弁などは防戦一方で相手の土俵で戦っているように見えます。
皆さん自分の土俵で戦いたいのでしょうが、なかなか自分の土俵には乗せさせて貰えないものです。私は機会があればあちこちの講演などに出かけます。色々な医療法人の理事長のセミナーを良く聞いています。講演の仕方も人それぞれではありますが、トランプ大統領のような話し方をする理事長も中にはいらっしゃいます。
トランプ大統領のようとは、いったいどのような話し方なのでしょう。特徴としてはなぜか大衆が引き込まれる、聞いていて飽きない、話を聞いていて楽しい。そんな気持ちで話を伺っています。一様にこういう理事長のリーダーシップは非常に長けている印象です。トランプ流の話の仕方はマフィアのドンのやり方だそうです。という事は先ほどのような理事長たちはヤクザの親分のような話し方なのでしょうか?
トランプ大統領の話し方にはちゃんとその話法の名前があるようでマッドマンセオリーというようです。トランプ大統領だけでなく、過去はニクソン大統領もこの話法だったそうです。また大統領に限らずディズニー映画でおなじみのパイレーツオブカリビアンのワンシーンで有力な海賊長達で構成された評議会などもこの話法なのかもしれません。ばらばらの荒くれたちが同じ方向に向かいました。良し悪しは別にして、ばらばらのベクトルを力でねじ伏せて一定の方向に向かせるという点ではとても優れた方法なのだなぁ~と勉強になりました。
一方でこの手法には副作用もついて回るそうです。そのいっときは皆が同じ方向に向かいますが後で嫌な感情が残るという事もしばしばあるそうです。いつかトランプさんが去ったあとにアメリカに対する嫌な感情だけが残るという懸念があるそうです。
さて我々医療機関はと言えば、逆にクレーマーの方からこのマッドマンセオリーを使われる事の方が多いかもしれません。何をしでかすか判らない。交渉の過程で相手の計画を崩すということです。我々はこういった交渉術に対し、冷静に淡々と、粛々と対応するという事です。
トランプ大統領の発言をみながら、クレーマー達が次にどんな発言をしてくるのかを研究していきたいと思います。一方トランプ大統領のこの話法は一見するとその日の気分で、感情で発言しているように見えますが、実は冷静で計算してやっているそうです。クレーマーの方は感情での発言が多く、本当に支離滅裂で整合性がとれない場合もあります。なかなかこの話法を自分で使うような機会はないでしょうが、対クレーマーに対してのこの話法で来た方への応対にはとても勉強になるかもしれませんね。「簡単に言うと自分の土俵で戦う」「空気を支配する」という事なのでしょう。会議の席では自分主導の会議ができるよう、私もチャレンジしています。

【執筆者のご紹介】
中村 哲生(なかむら てつお)
1965年生まれ
医療法人永生会 特別顧問
多くの医療機関の顧問を歴任
開業に関するコンサルは70ヶ所以上
在宅医療に関するDVD
著書「コップの中の医療村」
2017年APECに参加
年間100本ほどの講演を行っている。