【第1回】在宅医療に携わる医師に聞いてみた在宅医療が上手くいく「特殊性3ヶ条」とは

Dr.英 裕雄(新宿ヒロクリニック 理事長)

2016-04-27



在宅で患者さんをしっかりとサポートするためには


「在宅医療って、一体どんな世界なんだろう」

そう思ったのが20年ほど前。当時は「在宅医療」という言葉自体もあまり知られていない頃で、
勤務医として在宅医療に携わることができる職場は無かったので開業しました。
研修医になって4年後のことでしたね。

いざ開業したものの、何を目指して良いか分からない、どうしたら良いか分からなかった。
だけど、とりあえず在宅医療のドアを開けて飛び込んでみた。

初めて広がる在宅医療の世界。20年、在宅医療に携わって失敗もしてきました。

認知症の患者さんをお宅で診ていましたが、肺炎になってしまった。
「これは入院しなくちゃいけないな」と思いましたが、家族の強い要望で自宅療養を選択したんです。
でもその後に重症化していしまって、やっぱり入院に。

病院からは「なぜこんなに悪化するまで入院させなかったのか」と諫められ、
家族からは「どうして在宅で肺炎治療ができなかったのか」と板挟みになってしまって。

『在宅で患者さんをしっかりと治療できるようにサポートするためにはどうすればよいか』

これを考えるための大きな契機となった出来事でした。

今置かれている状況・リスクをきちんと把握して患者さんやその家族にも説明し、
コンセンサスを得るようにコミュニケーションを取っていくことが重要だったんです。


在宅医療には特有な「3つの特殊性」がある


軸を持たずに漫然と在宅医療をやっていたら、患者さんにとっても不幸なことを引き起こしかねない。
そう気付いてから、在宅医療が他の医療と何がどう違うのか、その構造を整理しました。

1つ、患者のセルフケアをサポートすること。セルフメディシンサポートですね。
2つ、医療者による診療。注射とか採血、点滴、検査といったものです。
3つ、社会的な対応。夜の往診とか24時間対応すること、ケアマネージャーとの連携です。

この3つの特殊性を理解して、3つともがバランス良くできているかを客観的に評価しながら進めること、
これが在宅医療では大事なんです。「夜は面倒くさいから往診に行けない」ではダメ。
「ご自宅で点滴するのは大変なのでやめておきましょう」、これもダメです。

「セルフケア」とは患者さん自身やその家族の方々が療養に関わることです。
お看取りはドクターがするんじゃなくて、家族がするものだと思います。
それをどうサポートできるかが在宅医療に携わる医師に求められているのです。

これらができていない在宅医療は、患者さんにとってもありがたいものじゃない。
患者さんのお宅に行って神妙な顔をして診て帰ってくるだけじゃダメ。そんな在宅医療は楽しくない。


「ドクターに来てもらう」だけの在宅医療から抜け出すには


介護関連疾患(例えば認知症・骨粗しょう症)は早期から予防や治療ができるようになってきました。
そのため、寝たきりに近いような在宅医療の最後のステージにおける療養支援よりも
早い時期からサポートする必要が出てきたと感じています。

在宅医療は、これから「かかりつけ医療」の一部になってきますから「在宅医療」単体ではなく
「地域のかかりつけ医」としての在宅医療を改めて位置づけなければなりません。

自分の理念や技量を押し付けるのはプロフェッショナルとは呼べません。
患者さんの希望を聞き入れながら、患者さんの選択がどういう意味するのかを説明しなければなりません。
今後起こりうるリスクは何かを説明した上で、患者さんとどれだけ寄り添っていけるか、
これを突き詰めることにおいてプロフェッショナリティが求められています。

在宅医療は過渡期にあります。従来の「ドクターに来てもらう」在宅医療だけでは
対応できなくなる日が早晩来るでしょう。
施設の寝たきりの人だけを診ているだけが在宅医療なのかな、と医療者としては思うところがあります。


教育なくして次世代型の在宅医療医師は育たない


寝たきりになる疾患としては、脳血管症や認知症が主病名としてあり、
その合併症としては高血圧や糖尿病、骨粗しょう症、肺炎や褥瘡とか多種多様です。
疾患を抱えた患者は、介護サービスの方もいれば家族もそうであったり、こちらも多種多様。

疾病構造は急性疾患から慢性疾患に変わっていくのではなく、今後は「高齢疾患」になってきます。
高齢疾患は認知症とかフレイル、サルコペニアといったものですが、マネジメントが必要というわけではなく、
サポートが必要な疾患になってきている。

生活習慣病はある程度のマネジメントで予防すできますが、高齢疾患の場合は介護や生活と連動しながら
どのように適切にサポートするか、これが21世紀の医療者のあり方です。
様々な疾患と患者の層構造に全て対応できるような次世代型の在宅医療に対応していきたいですね。

次世代型の在宅医療者を育てるには「研修」や「教育」としての在宅医療が避けられません。
最近では学会との関わりも少なくなってきていますが、在宅医療の特殊性を伝えるには
教育から変えていかなければいけないと思っています。

ウチのクリニックでも大学から在宅医療の研修を受け入れています。
このような教育にも今後は力を入れていきたいですね。



英 裕雄先生 プロフィール


○略歴
1993年 千葉大学を卒業
1996年 内科クリニックを開設(院長就任)
2001年 新宿ヒロクリニックを開設
現在に至る

○主な役職
全国在宅療養支援診療所連絡会世話人
全国在宅医療推進協会理事
日本在宅医療学会評議員

新宿ヒロクリニック(東京都新宿区)
http://www.hiro-clinic.com/


(聞き手:プレドク事務局 齊藤)

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