「つぼ八」の法則

中村哲生(医療法人永生会 特別顧問)

2019-02-27

開業する医師から

「診療所の大きさはどれくらいのスペースが有れば良いですか?」

と聞かれます。

何科をメインにするかによって必要な大きさが異なりますが、
僕はよく「つぼ八」という言葉を使っています。

在宅医療を専門に行うクリニックの患者数のキャパは、診療所の坪数に大きく関係します。

なぜ「つぼ八」なのかというと、
それは1坪で患者8人という計算になります。

20坪の診療所=患者数のキャパは160人
25坪の診療所=患者数のキャパは200人
30坪の診療所=患者数のキャパは240人
35坪の診療所=患者数のキャパは280人
40坪の診療所=患者数のキャパは320人

という具合です。

なぜ事務所の大きさと在宅患者の数が比例するかと言うと、それは事務所に入れるスタッフの数に関係します。
人が増えれば机やロッカーなど物も増えます。
事務所の中の快適スペースというものもあります。
ある程度の快適なスペースが無いと、俗に言う空気が薄いという状況になります。
それぞれみんながストレスに感じるようになります。
また業務の効率も悪くなります。

人が増えて業務の効率が悪くなるというのは、経費が膨らむ要因にもなります。
不思議な事に快適性が損なわれ、酸欠のような状況が続きますと、クリニックの中で魔女狩りが始まります。
本能的に人間の間引きという事が起こり始めます。
事務所のスペースが狭く、酸欠のような状況の中に居ますと、なんとなく息苦しいという状況を通り越し、めまいや吐き気などという症状が出てしまう方もいます。
開業当初はお金も無く、経費を軽減したいという院長の心理が働き、小さく、安い物件を探す医師は意外と多いです。

自分の診療所は、どの位のキャパで、どのような在宅医療のスタイルにするのかを初めに良く考えてから開業をして欲しいものです。

まずは少数精鋭の在宅医療にするのか、組織化をした在宅医療にするのかを決める事から始まります。
少数精鋭の診療所は、 
医師1名 看護師1名 医療事務1名
ドクター1名で診られる患者数は最大で150名くらいです。
事務所スペースは20坪~25坪
整形外科や精神科、皮膚科などをメインにした在宅医療はこれで十分です。

組織化する診療所
医師3~10名  看護師3~10名 事務員2~4名 MSW 1~2名 事務長 1名
運転手4~10名
さらにコメディカルとして理学療法士、作業療法士、言語聴覚士、管理栄養士などを
入れる場合は人数が増加します。
事務所スペースは35坪~100坪
将来 どこまで規模を拡大するかにより事務所の大きさを考えて下さい。

※この法則は個人宅の数字の目安です。老人ホームへの訪問をする場合は、診療所のキャパは変わります。


診療所の引っ越しは大変です。

開業当初は狭い事務所で始めて、スタッフ数の増加に伴って、引っ越しするという
「ヤドカリ作戦」というのもあります。
メリット、そして経費効率は一番良いと思います。

ただし、診療所の引っ越しは、
まずは引っ越し場所ですが、保健所の管轄内である事が大前提ですので、ちょうど良いタイミングでちょうど良い大きさの事務所が見つかるかどうかという事があります。

引っ越しというのは、実は閉院と開院を同時に行うという事になります。
全ての届け出が出し直しになります。
医療機関の番号や介護保険の事業所番号も変わります。

患者さんとの契約書も全て取り直しになります。
そういった事も踏まえて、少なくとも開業から5年はそのままの場所でやれるような事務所を探す事をお勧めいたします。

「それなら始めから大きな事務所を借りれば良いじゃない」という先生もいます。
「はい その通りです。」

ですが、広い事務所は高いです。
患者さんの数が思うように増えなければ経費がかかります。

在宅患者さんのキャパは増えます。
その代わりに事務所賃料の固定費はあがります。
患者数が少なく、収入が少ない時には、支払いがきつくなります。

「内科系の在宅医療を目指すか」、「整形外科系の患者さん中心とするのか」、「ターミナルの患者さんを中心とした在宅医療を目指すのか」
在宅医療の内容によりスタッフの内容も変わります。

事務所の大きさと在宅医療の内容を開業前に良く考えましょう。

開業当初は患者数を増やすのは簡単です。
在宅患者さんが70名を超えてからは、増患が難しくなります。

なぜ70名を超えると増患が難しいのでしょうか?
それは 在宅医療には「ドロップ率」というのが有ります。

在宅患者さんのドロップ率はおおむね10%です。

この計算ですと、在宅患者数が10名の時はドロップが1名です。
患者数が70名では7名、100名では10名、150名では15名、200名では20名がドロップします。

ドロップ数以上の新規の患者さんが来なければ、患者総数はマイナスになります。
後半の伸びは鈍化します。
ですから、初めから広すぎる事務所を借りるのもお勧め出来ません。

事務所の大きさは、自分が目指している在宅医療の形をしっかりイメージして、スタッフの数を考えた上で、どれくらいの大きさが必要なのか――
そんな事も念頭において、在宅医療の開業をして下さい。


中村 哲生(なかむら てつお)
1965年生まれ
医療法人永生会 特別顧問
多くの医療機関の顧問を歴任
開業に関するコンサルは70ヶ所以上
在宅医療に関するDVD
著書「コップの中の医療村」
2017年APECに参加
年間100本ほどの講演を行っている。

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