在宅医療最前線6/24号【在宅たかせ塾】在宅医によるソーシャルサポート

髙瀬 義昌(医療法人社団至髙会 理事長)

2020-06-24

 新型コロナウイルス感染症は、油断はできないものの、一時期の状況は脱しました。近隣の病院も正常稼働に戻り、当院も少しずつ落ち着きを取り戻しています。感染対策を継続しながら、第2波への備えをしなければと考えています。

 さて先日、こんなことがありました。
ケアマネジャーより依頼があり、二人暮らしをしている90歳と86歳の姉妹宅への訪問診療を開始しました。お二人とも認知機能低下あり、それでもなんとか助け合ってギリギリの生活をしているという印象です。訪問診療を開始して二か月。ようやく私たちが出入りすることにも慣れてきたころ、姉が慢性心不全の急性増悪により入院、退院と同時に老健に入所となりました。さて問題となるのは、次の行き先です。自宅に戻ってもとの二人暮らしを再開するのは難しいのではないか。。。

 ご本人と妹さんの意向を聞きながらケアマネジャーと連携して検討することになりました。一人暮らしとなった妹さんは毎日のように電話をかけてきては不安を訴え、食事量も減っている様子。当院からも精神科訪問看護を導入して対処しましたが、できる限り姉妹お二人ともが安心して暮らせる環境を整えるにはどうしたらいいか、早急に決めなければなりません。

 これらの検討でまず問題となるのはお金のこと。年金がいくら出ていて、貯蓄はいくらあるのか。そして残された時間はあと何年くらいか。それらを推定して月々使える金額を計算しました。そしてお姉さんの退所後の行き先としてまず候補に挙がったのは特別養護老人ホーム。ここ大田区では何百人待ちという状況ですが、とりあえず申し込みを行って順番を待つことになりました。
 
次に妹さん。精神的に不安定で、認知機能低下もあり一人暮らしを継続するのは難しそうです。今いる家を退去して、施設入居も考えた方がいいのではと勧めましたが、姉と長年住んだこの家を離れるのはいやとおっしゃいます。そしてその希望の根底にあるのは、また姉と一緒に暮らしたいという思い―――。

 いろいろと検討して話し合いを重ね、最終的には姉の特別養護老人ホームの申し込みは取りやめ、二人一緒に入居できる有料老人ホームに決めました。妹さんは自宅へのこだわりを見せ、しぶしぶ合意しての入居でしたが、周囲に人がいて温かい食事が食べられる環境が気に入った様子。会いに行くと笑顔で迎えてくれました。そして居室内で姉妹二人で何を話すでもなく過ごしてる姿に心より安心しました。

 本人が望むことと現実性との折り合い。地域で最期まで暮らし続けるには、医療だけでは解決しないことばかりです。これらを一緒に考え、支えていくのも在宅医として重要な仕事のひとつです。



【執筆者のご紹介】
髙瀬 義昌(たかせ よしまさ)
信州大学医学部卒業。東京医科大学大学院修了。
麻酔科、小児科を経て、包括的医療・日本風の家庭医学・家族療法を模索し、2004年東京都大田区に在宅を中心とした「たかせクリニック」を開業する。
現在、在宅医療における認知症のスペシャリストとして厚生労働省推奨事業や東京都・大田区の地域包括ケア、介護関連事業の委員も数多く務め、在宅医療の発展に日々邁進している。

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