在宅医療最前線7/22号【在宅たかせ塾】在宅医療の3つのD

髙瀬 義昌(医療法人社団至髙会 理事長)

2020-07-22

 当院で診療を始めて1年ほどたった95歳の患者さん。社長として稼業を支えてきた方です。当初は「打ち合わせがありますから!」と言って診療拒否。ご挨拶するのも一筋縄ではいかず、何度空振りしたことか・・・

認知機能低下はご家族も感じていたようです。とうとう通院が難しくなり、当院の訪問診療を開始しました。当初より、家族への被害妄想があり、一旦怒り出すと数時間とまらない、しかも睡眠リズムがめちゃくちゃ。二日寝て二日起きるというサイクルで、起きている間中騒ぐという状況に家族は疲れ切っていました。

 それでも何度か顔を合わせるうちに私のことも受け入れてくれるようになり、やっと家の中で落ち着いて診療ができるようになってきた頃、会話中に「後継者がいない」と不安そうに訴えたり、「そばにいてほしい」「死にたい」といった言葉が頻繁に出てくるようになりました。

 認知症の心理行動症状(BPSD)としての被害妄想に加え、不安からくる抑うつ状態を合併しているのではと見立て、まずはうつ症状と睡眠障害の改善を行うために高齢者でも使いやすい抗うつ薬を選択したところ、少しずつ表情が明るくなり、楽しい話もしてくれるようになってきました。

 しかし落ち着いていたのも束の間、今いる場所がわからなくなる、娘様を自分の母と間違えるといったことが1日の中で繰り返し発生するようになり、家族を驚かせました。認知症とうつに加えて、せん妄がさらに乗っかってしまった状態です。せん妄を引き起こす身体的な要因を除外するため、近隣の病院にて精密検査を行ったところ、心臓疾患が見つかったためその治療をするとともに、服薬の調整とメンタルケアのため精神訪問看護を導入しました。今は多少の波はあるものの、笑顔の時間が増えてなんとか安定して過ごされています。

 在宅医療でみる方にはよくある話。この3つのD(Depression・Dementia・Delirium)がごちゃまぜに同居している患者さんは少なくありません。ひとつづつ紐解くための観察眼と対応力を磨く。日々是勉強です。



【執筆者のご紹介】
髙瀬 義昌(たかせ よしまさ)
信州大学医学部卒業。東京医科大学大学院修了。
麻酔科、小児科を経て、包括的医療・日本風の家庭医学・家族療法を模索し、2004年東京都大田区に在宅を中心とした「たかせクリニック」を開業する。
現在、在宅医療における認知症のスペシャリストとして厚生労働省推奨事業や東京都・大田区の地域包括ケア、介護関連事業の委員も数多く務め、在宅医療の発展に日々邁進している。

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