在宅医療最前線8/26号【在宅たかせ塾】独居認知症と在宅医療

髙瀬 義昌(医療法人社団至髙会 理事長)

2020-08-26

 ご存じの通り一人暮らし高齢者は増加傾向です。当院の患者さんでも独居の方が増えてきました。孤独死問題などとも相まってどう独居高齢者を支援するかというのはより大きな社会問題となっていくことは言うまでもありません。

 先日、地域包括支援センターより連絡がありました。80代後半の独居の女性の診療を今日してくれないかとのこと。気温が35度を超える中、エアコンが壊れており、37.5度の熱発をしている。認知機能低下があり、手元に数十円しかお金がなく食料も明日には底をつきそうとのこと。私たちが診療したところで、食料調達ができるわけでもなし、その日そんな暑い部屋においてはおけないだろうし、どんな解決をすべきだろうかと考えながら、なんとか時間を調整し、行ってみることにしました。

 部屋は整理整頓されており、几帳面な性格がうかがえました。エアコンの故障はどうやらリモコンの電池切れだったそうで、行ったときには室温は適度に保たれており、熱も下がっていました。お金は手元にはないが、コツコツ貯金をしており、銀行に行けば現金はあるとのこと。緊急対応すべき状況ではないことに少し安心したのですが、この先近々トラブルが起きるであろうことは想像に難くありません。

 ご本人は私たちの顔を見るなり、「上の階に泥棒が住んでいて、なんでも物を持って行ってしまうの」と不安な表情で訴えてきました。地域包括支援センターのスタッフのお話では、病院受診は予約の日に忘れてしまって行けずじまい、物盗られ妄想があるためか警戒心が強く、介護サービスは拒否とのことで、介護保険申請すらできていなかったとのこと。翌週、遠方に住む親族と地域包括支援センターのスタッフ、ケアマネ候補の方と当院で会議を開き、今後の支援体制を整える端緒につくことができました。今回はなんとか間に合ったという印象ですが、本来であればもっと早いタイミングでさまざまなケアがあってしかるべきでしょう。

 「認知症高齢者の独居生活は無理」というのは乱暴ですが、高いリスクがあることは確かです。認知機能が低下すればするほど、環境変化に弱く、合理的決断はできなくなります。本人の身体に危険が及ぶとき、いくら拒否が強いといっても「本人の意思を尊重する」という言葉を盾に思考停止、介入停止するのはいかがなものかと思います。



【執筆者のご紹介】
髙瀬 義昌(たかせ よしまさ)
信州大学医学部卒業。東京医科大学大学院修了。
麻酔科、小児科を経て、包括的医療・日本風の家庭医学・家族療法を模索し、2004年東京都大田区に在宅を中心とした「たかせクリニック」を開業する。
現在、在宅医療における認知症のスペシャリストとして厚生労働省推奨事業や東京都・大田区の地域包括ケア、介護関連事業の委員も数多く務め、在宅医療の発展に日々邁進している。

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