新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の蔓延は、私たちを大いに翻弄し、さまざまな脆弱性を白日の下にさらす結果となりました。武漢で肺炎がはやっているという情報をぼんやり聞いていたのが昨年のちょうど今頃。まさか1年後にここまでの拡大を見せ、私たちが住む世界を大きく変えることになろうとは想像もしていませんでした。
私が診療を行う大田区(東京都)は羽田空港があり、武漢からのチャーター便が到着した本年1月から影響を受ける環境にありました。チャーター機による帰国者受け入れのために近隣の医療機関の外来が止まったことは、当時はかなりの大事と受け止めていましたが、今振り返れば本当に小さな小さなことだったと思います。
在宅医療の現場も多くの対応に追われました。経営的なダメージは外来診療と比較すれば大きくはなかったといえますが、対策マニュアルの整備、感染対策の徹底、物資の調達等々、刻々と変化する情報を常に見ながら、時に判断を誤りそうになりながら、なんとか過ごしてきたいうのが正直なところです。
高齢者は易感染性、重症化等のリスクもさることながら、当該ウイルスによって生じる社会の変化に適応する能力が低く、社会的ダメージを受けやすいというリスクも一層明らかとなりました。介護サービスは高齢者にとってはインフラと化しており、それらの中止は高齢者の心身に大きな影を落としました。併せて在宅医療もどんな状況でも止めることが許されないサービスであると改めて認識した次第です。
このウイルスとの闘いは継続します。地域での医療・介護の連携、ネットワークはますます重要で、お互いが上手に丁寧に補完しあって、支えるということを再確認しなければなりません。危機は分断を招きやすいですが、地域医療を支える仲間同士、病診連携、診診連携、医療介護連携をいま一度考え直す好機ととらえるべきかもしれません。

【執筆者のご紹介】
髙瀬 義昌(たかせ よしまさ)
信州大学医学部卒業。東京医科大学大学院修了。
麻酔科、小児科を経て、包括的医療・日本風の家庭医学・家族療法を模索し、2004年東京都大田区に在宅を中心とした「たかせクリニック」を開業する。
現在、在宅医療における認知症のスペシャリストとして厚生労働省推奨事業や東京都・大田区の地域包括ケア、介護関連事業の委員も数多く務め、在宅医療の発展に日々邁進している。
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