在宅医療最前線3/25号【在宅たかせ塾】懐深い病診連携

髙瀬 義昌(医療法人社団至髙会 理事長)

2021-03-25

 桜の季節がやってきました。ここ東京は満開です。今年も花見はできませんが、やはり桜の開花は気持ちが明るくなりますね。今年も往診の道中、車窓から見える景色を楽しみたいと思います。

 地域包括支援センターから依頼があり、訪問診療を開始するケースが増えています。大抵は単なる身体疾患ではなく、複合的な問題を抱えており、さまざまな問題を紐解きながら、地域で連携して最適解を探すというプロセスを踏みます。今回は、身体的には元気ですが認知症があり近隣トラブルを起こしている妻と、ADLの低下がありほぼ日中布団の上で過ごしている夫の二人暮らしの家庭です。

 まずは夫の訪問診療を開始しました。妻も妄想がひどくさまざまなトラブルに発展しているとのことでしたが、ご本人病識がなく医療の必要性をまったく感じていないこともあり、まずは夫の診療をしながら妻と信頼関係を築き、必要となったときにすぐに介入する準備をすることにしました。夫の介護申請を行い、担当のケアマネジャーも決まり、いろいろと困難はありながらも、少しずつ支援体制が整ってきた矢先、夫が胆管炎で高熱を出し、入院してしまいました。

 ひとり残された妻は、夫の帰りをひたすら待ち、面会できないと何度言われても毎日のように病院に押し掛けていました。地域のスタッフと妻の見守りをしつつ、今後の二人の生活をどうするか、病院の退院調整と同時に介護サービスを導入を検討し、安全に暮らせる方法を模索したいと考えていました。

 ところが、ある日地域包括支援センターより、病院で夫の退院後施設入居をする方向で話が進んでおり、妻が非常に狼狽していると連絡がありました。いつの間に、どんなプロセスで決まってしまったのでしょう。院内で話し合い、介護力の低い自宅への復帰は困難、施設入居が最適という結論となったようですが、残される認知症の妻のことは一切考慮されていません。お互いに非力ながらもなんとか支えあって暮らしてきた二人がこのタイミングで別れるというのは最適解とは思えませんでした。

 病院との連携、意思疎通の難しさを改めて認識した次第です。私は「懐深い病診連携」と言っていますが、今回のできごとはその考え方とは大きく異なります。それぞれの機能と能力を理解し、プロセスを共有しあえる関係性作りを地域の病院すべてと構築するまでにはまだ少し努力が必要と認識したできごとでした。



【執筆者のご紹介】
髙瀬 義昌(たかせ よしまさ)
信州大学医学部卒業。東京医科大学大学院修了。
麻酔科、小児科を経て、包括的医療・日本風の家庭医学・家族療法を模索し、2004年東京都大田区に在宅を中心とした「たかせクリニック」を開業する。
現在、在宅医療における認知症のスペシャリストとして厚生労働省推奨事業や東京都・大田区の地域包括ケア、介護関連事業の委員も数多く務め、在宅医療の発展に日々邁進している。

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