在宅医療最前線7/21号【在宅たかせ塾】介護者による虐待

髙瀬 義昌(医療法人社団至髙会 理事長)

2021-07-21

 関東も梅雨明けしました。急激に気温が上がり、さっそく本日当院の患者さんを熱中症疑いで救急搬送をしました。コロナ感染者の増加に伴い、熱発者の入院加療が難しなるのは昨年経験済み。可能な限りの入院予防も在宅医の務めなのですが、追いつかないのが現状です。

 2年ほど前より訪問診療をしている患者さんです。4年前にアルツハイマー型認知症の診断を受けており、当院が診療を開始した時点でも日常生活を自立して行うのは困難な状態でした。妄想や徘徊があり、踏切内で立ち往生をしていて保護されるといったトラブルも起きています。介護は高齢の夫と長男が行ってはいましたが介護力が十分でないことは明らか、ケアマネジャーと連携してデイサービスや訪問看護の導入などを行って生活環境を整え、当院が診療を開始してから1年半ほどは安定して暮らしていました。

 しかし最近、長男がご本人に暴力をふるったことが判明しました。実は1か月ほど前からご本人に内出血などの外傷があり、虐待の疑いがあったのですが、本人に聞いても覚えておらず、ご家族は「自分で転んだ」と主張して確証は持てない状況で、支援者同士で注意深く経過を見ようと話していたところです。いずれにしても、たとえ転倒だとしても新しい傷がたびたびできるという状況では、自宅での療養継続はそろそろ限界だろうと思い始めていた矢先に家族による暴力が発覚、地域包括支援センターとケアマネジャーが連携し、ショートステイでしばらくすごしていました。

 安全な環境で過ごせてさぞ快適だろうというのはこちらの勝手な思いで、どうやらご本人が「帰りたい」を繰り返しているとのこと。地域包括支援センターとしては、本人の意思に反して引き留めることはできないと。ご家族は「もう絶対暴力は振るわない」と言いますが・・・

 何があっても許されることではありませんが、虐待に至るまでに家族にも相当なストレスがあったであろうことは同情せざるを得ません。介護疲弊に加えて、徐々に衰えていく母親を受け入れられないといった思いもあるかもしれません。同じ環境に戻すのではなく、新たな家族の形を作るために私たちができることは何かを考えています。



【執筆者のご紹介】
髙瀬 義昌(たかせ よしまさ)
信州大学医学部卒業。東京医科大学大学院修了。
麻酔科、小児科を経て、包括的医療・日本風の家庭医学・家族療法を模索し、2004年東京都大田区に在宅を中心とした「たかせクリニック」を開業する。
現在、在宅医療における認知症のスペシャリストとして厚生労働省推奨事業や東京都・大田区の地域包括ケア、介護関連事業の委員も数多く務め、在宅医療の発展に日々邁進している。

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