老人ホームに入居しているお父さん、お母さんのお見舞いに毎週来るご家族が居ます。とても良い家族ですね。ところがそんなご家族にもクレーマーが存在します。クレーマーとなってしまうのはお子さんの心理があります。
まずその前にですが、長年育てて貰った親を老人ホームに預けるということ自体にためらいというものがあります。自分たちで介護をしなければいけないと思うご家族は少なくありません。自分達で面倒は看たいけれど、家族の介護力や仕事の関係で老人ホームにお願いしないといけないという状況の方は少なくないのが現状です。そんな「負い目」や「罪悪感」を持った家族というのはとかくクレーマーになりやすいようです。
週末になるとその家族がやってきます。
「お母さん どう? 具合は?」「老人ホームのスタッフはちゃんとしてくれてる?」
「食事は美味しい?」
お母さんに色々質問しますね。
お母さんは、「食事がおいしくないのよ」
「いつでも自由にお風呂に入りたいの」
「他の入居者さんの声がうるさいの」
そんな会話になるようです。お母さんは慣れ親しんだ自宅へ帰りたいのです。
帰りたいのですから老人ホームの悪口の1つや2つも出て来ますね。
それを聞いた家族は老人ホームのスタッフを激怒します。
「食事がおいしくないじゃないか!」
「もっと頻繁にお風呂に入れてくれ!」
「他の入居者に注意してくれ!」
こんなことから始まり、どんどん要求がエキサイトして行きます。
家族としてはお母さんを老人ホームに預けた事に対して「負い目」や「罪悪感」があるというのが理由なのです。毎週、毎週 お母さんの代わりに施設のスタッフに対して怒ることで、自分が介護をしている錯覚、お母さんの為にしてやっているという満足感が得られるのです。
老人ホームのスタッフはたまったものではありません。むしろ自分達の代わりにお世話をしてくれているスタッフさんに感謝をするのが筋というものなのですが、怒ることで自分たちの気持ちを埋めているのです。
割と元気なころに入居したお母さんも数年経ちますと、認知症や高血圧などだんだん症状が悪化していきます。ご家族は加齢に伴う身体の低下についても老人ホームのスタッフを叱責します。病気や老化についての原因は老人ホームにあると考える方が居ます。老人ホームに入居する事で、生活環境が変わります。その結果、急に認知症が進む方も居ます。こればかりはどうにもなりません。
しかし家族は「認知症が進んだ原因は老人ホームの対応が悪いからだ」と言い出します。そんな家族ですがこのままクレーマーとして存在し続ける方も居れば突然クレーマーで無くなる家族が居ます。
クレーマーで無くなるご家族は老人ホームに預けたことがだんだんと気にならなくなるようです。その一方で「負い目」や「罪悪感」がどんどん薄れていくことで、お見舞いにもだんだん来なくなる。と言った事もあるようです。人の心理って難しいですね。

【執筆者のご紹介】
中村 哲生(なかむら てつお)
1965年生まれ
医療法人永生会 特別顧問
多くの医療機関の顧問を歴任
開業に関するコンサルは70ヶ所以上
在宅医療に関するDVD
著書「コップの中の医療村」
2017年APECに参加
年間100本ほどの講演を行っている。