在宅医療最前線9/8号診療所のステージで必要な人材が違う

中村 哲生(医療法人永生会 特別顧問)

2021-09-08

 在宅医療の診療所を立ち上げた当初、院長はある看護師をとても頼りにして可愛がっていました。その看護師は仕事が出来るのです。40代の独身看護師で時間に制約も無く、24時間働いてくれました。夜間は医師のいう事に忠実に従って訪問看護に行ってくれました。医師にとって便利な存在だったのです。

 開業から2年が経ち、スタッフも増えました。看護師も7名、事務員も3人です。その頃になると何故か初めに頑張ってくれていたスーパーナースがクリニックの運営上ブレーキになってきました。他のスタッフは家庭があり、夜遅くまでの残業はしたくないと思っています。しかしスーパーナースは自分が基準です。残業などは当たり前、すべての従業員に強要します。家庭があり、子供が居て、保育園に預けている方もいてみなさんそれぞれの事情があるのです。こうなるとスーパーナース以外は皆さん順次、退職して行きます。採用しても採用しても定着しません。院長はこのスーパーナースが原因だと気が付きます。

 スーパーナースはどうも1人きりの自宅に帰るのが嫌なようです。帰りたくないので、他の従業員にも家へ帰さないようにします。このスーパーナースの生活の中心は職場なのです。「他の従業員達には家庭があり同じようにはできない」とこの看護師に話すのですが理解することができないようです。労働基準法についてもとくとくと話をします。結局このスーパーナースは居場所が無くなってしまい、退職して行きました。

 個人商店レベルからスーパーマーケットに進化する頃、経営陣の考え方も進化していかなければなりません。これまで割となぁなぁで居た経営者と従業員との関係は通用しなくなります。規定集をしっかり作ってルールを明確にして、労働基準法を順守するという事になります。初めに苦労した従業員たちは、なぁなぁのままでいたいと思います。むしろ元の規模に戻りたいという人もいます。個人商店レベルのクリニックの方が家族的な雰囲気があります。経営陣にもなんとなく寂しさもあります。

 労働基準法では「常時10人以上の労働者」を使用する使用者は就業規則を作成し、行政官庁(労働基準監督署)に届け出なければならないとしています。うまい事、出来ていますね。やはり従業員が10人になるとルールが必要な時期なのでしょう。ここで面倒なのはその従業員の方から労働基準監督署の届け出する就業規則に名前と印鑑を押して貰うのです。

 僕らも従業員の為に良かれと思って就業規則を作るのです。作るからにはちゃんと守らなければいけません。やらない所は今でいうブラック企業になります。しかし従業員側の方で反対者が出るのですね。先程のスーパーナース夜中まで働きたいと言います。しかも他の従業員にまで強要しようとします。なかなか困ったものです。このナースが言うには「私の若いころはそれが普通だった」「今時の若い人は根性が無い」って いつの時代の人なのだろう・・・あなたまだ40代でしょ・・

 事業所が大きくなると必要な人材が変わってきます。やがて従業員が100名を超えます。大所帯になりました。いつしかスーパーマーケットはデパートになりました。職種も色々、働き方も色々、残業代を稼ぎたい人、早く帰りたい人、正職員もパートもいます。様々な管理が必要になります。そうなると、人事、総務のエキスパートが必要になります。

 このエキスパートの方々が来るとまた、なんとなく雁字搦めになってきます。創業メンバー、初めに貢献したメンバーの居心地が悪くなっていきます。こうして徐々に社歴の長い人達が少なくなっていく事もあります。事業が大きくなる過程で何が良いのだろうと何度か自問自答しました。企業が育つスピードと従業員が育つスピードは違います。

 私が居たクリニックは時速200Kmのスピードでスーパーカーに乗って駆け抜けたのかもしれません。ある従業員は時速200Kmを楽しめました。ある従業員は時速100Kmが限界でした。またある従業員は時速50Kmの人も居ます。それぞれスピード感が全く異なる人たちを一緒に乗せて走ると途中で振り落とされる方がいます。不思議ですが時速200Kmのスピードを体験してしまうと時速250Kmでも大丈夫な方も現れます。

 どこのスピードが適正なのでしょう。たまにはゆっくり各駅電車にでも乗って周りの景色も楽しんだ方が良いのかもしれません。おそらくまだもっと上のステージを知っている方もいるでしょう。人類にはごく少数ですがロケットに乗って宇宙飛行をしている方もいます。ロケットって時速28000Kmだそうです。宇宙から見た地球は綺麗なのでしょうね。

働き方改革の昨今、貯まっていまった有休の消化が一番苦労の種なのです。あ 夏休み・・・消化しなければ・・・



【執筆者のご紹介】
中村 哲生(なかむら てつお)
1965年生まれ
医療法人永生会 特別顧問
多くの医療機関の顧問を歴任
開業に関するコンサルは70ヶ所以上
在宅医療に関するDVD
著書「コップの中の医療村」
2017年APECに参加
年間100本ほどの講演を行っている。

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