「在宅医療マインド」という言葉を時々聞きます。どういう事かと言いますと僕は「患者や家族の気持ち」という理解をしています。病院の医師や看護師は家庭環境や経済力とか家族関係とかあまり関係なく治療という事が本質かもしれません。病を治すということが最優先です。在宅医療の現場では医師は患者さんのご自宅に行きます。今まで見えなかった物が見えてきます。アスベストがむき出しの家もあれば、ゴミ屋敷のようなお宅もあれば、老人の独居や、とてつもなく大きな豪邸もあったりします。色々なお宅に中に入ります。
さて在宅医療で診る患者さんの中で在宅末期医療というものがあります。病院に入院していた癌の末期の方が最後にご自宅で療養生活を家族と過ごします。余命が解っている患者さんがご自宅で最後の時間を家族と過ごします。最後の1か月~数か月、ご家族とどのような時間が出来るのでしょうか。皆さんそれぞれ色々な思いがあります。医師や看護師はそんな患者さんやご家族のサポーターであり演出家でもあります。最後の想い出作りにもなります。残されたご家族が後悔しないように、患者さんが最後まで苦しまず慣れ親しんだご自宅で生活ができるような医療をしなければなりません。
医師や看護師は自分のやりたい医療では無く、生活をサポートする医療になります。勿論、最後まで積極的な医療を望む患者さんやご家族も居ます。
さて失敗例を書きます。
現在、入院中の癌の末期患者さんが退院してきます。奥様が患者さんでご主人が介護者になります。二人の想いは病院で最後を迎えるのではなく。慣れ親しんだ、想い出のある、ご自宅のベッドで過ごしたいという想いがあります。病院を退院されて、自宅に戻りました。初診で訪問した医師、看護師は「このベッドだと床ずれが出来ちゃうから介護用のベッドに変えましょう」と言いました。ご主人は怒りました。怒って「お前ら帰れ もう来なくていい」と言います。このご夫婦はこの想い出のベッドで最後を過ごしたいのです。
その最後の想いのベッドを変えてはいけないのです。
おそらく医療的、介護的には褥瘡ができないように、介護ベッドや介護用のマットに変えるというのは正しいのでしょう。しかし在宅医療の現場ではこの答えは正しくなくなってしまします。このご夫婦は最後の時間をこのベットで過ごす為に病院から自宅に戻ったのです。この患者さんとご家族が一番望んでいるのはそのベットで過ごすという事です。在宅医療マインドというのはこの想いを実現する為のサポートを医療で何をしてあげられるかを考える事になります。その上で褥瘡にならない方法を考える事が大切になります。
病院に長く勤めていた医師が在宅医療に転身して初めから在宅医療マインドを理解している人は少ないかもしれません。在宅医療の医療機関で半年、1年と経験していく中で在宅医療マインドが育っていきます。そして在宅医療マインドが身体に染み付くと地域の看護師、ケアマネージャーからの評価が高くなり新規患者が大幅に増加するようになってきます。

【執筆者のご紹介】
中村 哲生(なかむら てつお)
1965年生まれ
医療法人永生会 特別顧問
多くの医療機関の顧問を歴任
開業に関するコンサルは70ヶ所以上
在宅医療に関するDVD
著書「コップの中の医療村」
2017年APECに参加
年間100本ほどの講演を行っている。