暖かくなってきましたね。コロナの感染者は一時ほどではないものの、まだ続いていますね。当院では昨日も90代の患者さん2名の陽性が判明し、救急搬送となりました。高齢者にとっては感染症そのものもさることながら、それによって心不全が悪化したり、ADLが低下するなどのダメージが大きいですね。ワクチン接種も引き続きせっせと行いながら収束を待ちたいと思います。
本日は私がとても信頼している不眠診療の書籍をご紹介したいと思います。岡山大学病院精神科神経科の井上真一郎先生著の「外来・病棟で役立つ!不眠診療ミニマムエッセンス(中外医学社)」です。私の在宅の患者でも不眠の訴えは多く、とはいえよくよく聞くと「9時に寝床に入り、2時に目が覚めてしまってそれから眠れない。」といったように、生活習慣そのものに改善の余地がある場合があります。そして何より問題なのが、長期間に渡って服用し続けている睡眠薬です。かつての不眠症治療薬はベンゾジアゼピン受容体作動薬ほぼ一択といった状況があり、安易に処方されてきた歴史があります。徐々に効かなくなり、量が増加した状態で高齢期を迎えるということが起きています。高齢になりせん妄ハイリスクとなった段階で、これらの薬が悪さをし、しかし身体的・精神的依存があり中止しようにもなかなかできず、非常に難渋することがあります。
最近ではオレキシン受容体拮抗薬が複数発売されており、有効ですがベンゾジアゼピン受容体作動薬と比較すると効き目の実感が薄いようで、適切に説明をしないと「効かない薬」と認識してしまうこともあるので注意が必要です。私の場合は、鎮静系の抗うつ薬であるトラゾドンを併用して調整をします。それらの薬を導入し、ベンゾジアゼピン受容体作動薬は、少しずつ少しずつ時間をかけて減らしていきます。「この薬は転倒したりする薬で、骨折でもすると、費用がこんなにかかるよ!そろそろ卒業しようね」といったお話を笑顔で話し続けています。
外来・病棟で役立つ!不眠診療ミニマムエッセンス
井上真一郎 著
http://www.chugaiigaku.jp/item/detail.php?id=3635
骨折が原因で介護となった場合の5年間の費用:1540万円(骨粗鬆症財団)
https://www.jpof.or.jp/Portals/0/images/publication/hone_info_A_20180409.pdf

【執筆者のご紹介】
髙瀬 義昌(たかせ よしまさ)
信州大学医学部卒業。東京医科大学大学院修了。
麻酔科、小児科を経て、包括的医療・日本風の家庭医学・家族療法を模索し、2004年東京都大田区に在宅を中心とした「たかせクリニック」を開業する。
現在、在宅医療における認知症のスペシャリストとして厚生労働省推奨事業や東京都・大田区の地域包括ケア、介護関連事業の委員も数多く務め、在宅医療の発展に日々邁進している。