在宅医療で診ていた患者さんでも死亡診断書が発行出来ないケースがあります。
(医師法20条及び21条)診療所から定期訪問をしている患者さんであっても、死亡の原因が診療に関わる傷病と関連が無い場合は警察への届出、または救急隊から警察への要請などの対応にて、死体検案書を発行して頂くことがあります。
ケース1
① 夜間老人ホームから患者が死亡したと電話が鳴る。
② 状況を聞くと既に死亡している。
③ 最後に診療したのは3週間前。
④ 昨夜の夕食まで元気にご自身で食事をしていた。
⑤ 死亡するような病気では無かった。
⑥ 家族の希望は病院へは送らずにそのまま死なせたいと言っていた。
⑦ 警察介入は望まない。
こんな方の突然死では死亡診断書は書けません。
老人ホームから「突然亡くなったので、死亡診断書を書いてほしい」という連絡が有りました。先生は電話でその直前の様子を聞くでしょう。「熱がありましたか」とか「食事は摂れていましたか」などを伺うと思います。「数時間前までは自分で食事も出来ました」「普通に元気でした」と言っています。しかも死因と因果関係がありそうな傷病名はありません。
こういった例では医師は死亡診断書を書くことは致しません。警察への通報になります、いわゆる異状死ということです。通報義務を怠ると30万円以下の罰金というものがあります。死亡に関しては死亡診断の内容によって、その後、お金に纏わるトラブルに発展する事もあります。保険金や遺産相続など死亡原因により、影響される事もあります。
例えば施設などで、直前に転倒していたとか、もしくは虐待など刑事事件に発展するような事案もあると思います。高齢者施設の現場では、死亡時には速やかに処理してしまいたいという思いが強いようです。実際にこのように死亡診断書を書けないケースで医師が死亡診断書を書かなかった事を不満に施設側から訪問診療の契約を解除するケースもあります。
死亡診断書に纏わるケースとして老人ホームから言われる事ですが、「ご家族が入院や警察介入を望んでいないので、死亡診断書を書いてほしい」「事前に家族からそのように契約を取り交わしている」という事を発言される事もあります。医師法20条及び21条により家族の同意が有りましても、警察にお願いする事態になります。夜間当直している、看護師や介護士の方々は医師法について知らない方が多いです。医師と老人ホームとの間で感情的になり、トラブルとなるケースが増えています。
そこで老人ホームの方に「何故死亡診断書にこだわるの?」と聞きますと
① 警察が来ると近所の目があるから
② 警察が来ると他の入居者さんが不穏になってしまうから
③ 上司に怒られると思った。
④ 手間と時間がかかるから
⑤ 家族は望んでいないから
というご意見でした。
ケース2
① 1度も診察をした事がない。
② 末期の癌患者である。
③ 死亡原因は明らかである。
④ 死亡診断書だけ書いて欲しい
このケースでも死亡診断書は書くことはできません。例え終末期であっても医師が日ごろから診ていなければ書く事は出来ないです。
ケース3
① 末期の癌患者である。
② 日ごろから診療をしている。
③ 24時間以内には診察をしていない。
④ 死亡原因は日ごろの診療内容から明らかである。
⑤ 死亡診断書を書いて欲しい
このケースに関しては死亡診断書を書くことは出来ます。4時間以内に診察をしていないという事で書けないのではという医師も居ますが、このケースでは死亡診断書を書くことが出来ます。
【執筆者のご紹介】
中村 哲生(なかむら てつお)
1965年生まれ
医療法人永生会 特別顧問
多くの医療機関の顧問を歴任
開業に関するコンサルは70ヶ所以上
在宅医療に関するDVD
著書「コップの中の医療村」
2017年APECに参加
年間100本ほどの講演を行っている。