とある区営住宅に新規の訪問診療に同行した時の事
駅から徒歩5分の3DKの団地です。
おじちゃんと息子2人で住んでいます。
お宅に上がるとおじいちゃんが寝ているお部屋の隣のお部屋にはプラモデルとかモデルガンとかその他オモチャがお部屋いっぱいに置かれていました。
コレクターかな と思っていましたが、聞くとテキヤさんだそうです。
このおもちゃは屋台での商品だそうです。
先生が診察を始めるより早く、
「うちは生活保護だから」
「医療費無料なんでどんだけ来てもらっても、どんだけ薬を出してもらっても構わないから」と言われました。
こちらのお宅親子2代の生活保護です。
都内一等地の団地に安い金額で入り収入あるはずなのに生活保護。
これが日本の社会なのだろうな と思った瞬間でした。
翌日別のお宅に新規訪問しました。
こちらのお宅もおばあちゃんもベッドに寝たきりです。
おじいちゃんと孫と3人で暮らしています。
介護者はおじちゃんです。
生活費がギリギリで経済的にきついそうです。
医療費や薬局の自己負担金がの支払いが困難だそうです。
保健婦さんは
「本当は生活保護になった方が金額が上がるから良いのだけどね~」
「お孫さんがアルバイトしているから世帯収入で引っかかっちゃうのよね~」
「お孫さん、どこかで一人暮らししてくれないかしら~」
「貯金も微妙にあって ギリギリ生活保護になれないのよ」
と言っています。
孫だって一人暮らししたら家賃もかかるし、生活費だってアルバイトの金額では足りなしので独立できないのです。
孫はおじいちゃん、おばあちゃんの年金のおかげで生きていけるようです。
おばあちゃん、おじいちゃんは「生活保護にだけはなりたく無いのよ」と言っています。
一番正しい意見だと思います。
在宅医療をやってみてはじめて
・生活保護のプロが居る事
・生活保護費の方が年金で貰う金額よりも高いこと
・銀行の預金などなくこっそり箪笥預金にしたら生活保護になれること。
こんな事を知った日になりました。
在宅医療を始めると社会の色々な問題に直面致します。
2015年にマクロ経済スライドという制度が導入されました。
賃金や物価の上昇や下落に連動して年金の受給額が変わるというものです。
この制度が導入された事で年金の制度そのものがなくなるという事は無くなりました。
将来、自分が年金を貰う頃に社会経済が上昇していることを望むばかりです。
年金は下がる→医療費や薬局一部負担金の割合が上がり支払いが増える=老人はつらい
税収が足りない→消費税を上げる→支払額が増える=生活が苦しい
少子高齢社会で財源が無い→病院、診療所の医療の点数が下がる+消費税を転嫁するものが無い/消費税の支払いが増える=病院倒産
コロナ禍においてさらなる財政難になったとは思いますが、上記のような負のスパイラルにならない事を切に望みます。

【執筆者のご紹介】
中村 哲生(なかむら てつお)
1965年生まれ
医療法人永生会 特別顧問
多くの医療機関の顧問を歴任
開業に関するコンサルは70ヶ所以上
在宅医療に関するDVD
著書「コップの中の医療村」
2017年APECに参加
年間100本ほどの講演を行っている。