世の中のビジネス上「本音と建前」は人間関係を円滑にする上でとても重要な要素です。本音だけでは職場がギスギスしてしまいます。また建前だけでは物事が伝わらない、変革ができない。要はバランスが大事なのですね。また上司と部下の間では上司から部下への発言が本音7割建前3割、一方部下からの発言は本音4割、建前6割など対峙する相手によってその割合が変わるのではないでしょうか?なんの根拠もない個人的な感想としては医師からコメディカルへの発言の割合では本音の方が9分9厘なのかなと勝手な想像をしています。
元々日本人の性質として建前で話すという特性があるかもしれません。なかなか本心を出さないというタヌキのような性質が日本の文化の中に有りそうです。そしてその建前の中に隠された言葉の使い分けを理解できる能力も高いかもしれません。本音と建前は良い意味でも、悪い意味でも使う事ができます。なぜ良い意味での本音と建前という物があるかと言うと建前は相手を思いやる気持ちの表れとも言えるからかもしれません。
職場の会議などでは建前のような禅問答では相手に伝わらない、物事が決まらない、判断できないなどデメリットが大きい為、本音をぶつけ合う場になります。本音の押収の為、その場での緊張感、ストレスなどは大きいかもしれません。もっとも国会中継などを見ていると建前が多くてもその緊張感はとても大きそうです。揚げ足を取られないよう、言葉選びも慎重になっています。
建前というのは嘘とは違います。真実を話すのですがオブラートに包んだり、言葉をチョイスしながら相手を傷つけない、怒らせないようにうまく話す技術です。もちろん本来の意味が伝わらない、他の意味に取られてしまうと言う事では意味が有りません。ただ海外の人から言うとこの建前が全く分からないという事になります。英語の文法は初めに答えが来るようになっています。日本語と文法が逆なのです。英語は本音からズバリ始まります。
職場において違う考え方の人も居るでしょう、その中で自分の意見を主張をしつつ良好な人間関係を築く事が職場において大切だという事になりますが、建前を苦手とするドクターが多い職場では離職率が上がったり、パワハラ、セクハラ、ドクハラなどという事に発展する事も有るようです。最も大事な命を守る医師の発言が患者に伝わらないのは問題です。きちんと説明する事は大事ですが、その伝え方がうまいドクターは人気も有りますし、評価も高いです。
建前とは違いますが「社交辞令」とか「お世辞」などという言葉もありますが。特定の人には良いかもしれませんがこれが過ぎると周囲からは嫌われる方もいますね。「社交辞令」「お世辞」も上手に使える人は周囲からも嫌われずに職場の雰囲気を良くする効果があります。また上手に笑いに返るテクニックが有る方もいます。
最後になりますが建前にも良い建前と悪い建前があります。私は日ごろ新規採用で医師、看護師、事務員、ドライバーなどの面接も良くしています。面接ですから相手は当然何を聞いても建前で答えて来るものです。中にはいきなり本音をバンバンぶつけて来る面接者もいますが、この方はきっと職員とうまく行かないかなと不採用にした事例がいくつかありました。ほぼ9割以上の確率で面接は建前の応酬となります。
それでは良い建前の事例ですが例えばこちらが「差し支えなければ、前の退職の理由を教えてください」と聞いた場合の回答ですが。「病棟などを経て、在宅医療に興味持ち自分のスキルアップの為に退職を決意しました」という回答は建前の良い事例です。ポジティブな建前は印象が良いです。悪い方の建前は「前の職場では自分のスキルが上がらないので」といいつつも、何気なく奥歯に物が挟まったような、自分を良く見せたいがために、自分はこんな事ができる、前職のスタッフがイマイチだという事を匂わせるような建前の話をする方がいます。
話を聞きながらどうも話が入ってこない、何が言いたいのだろう、またはさりげなく前職に対してネガティブな建前をいう方がいます。こういう方はこちらとしては採用しても中でトラブルを起こす方も多いので採用に悩むポイントでもあります。
面接は建前の応酬と書きましたがこちらも面接の最後にいう言葉は「検討させて頂きます」と回答しますが。「検討します」=「不採用」だと思って頂いて良いのではないでしょうか?この「検討します」も正に建前言葉なのでしょうかね。
【執筆者のご紹介】
中村 哲生(なかむら てつお)
1965年生まれ
医療法人永生会 特別顧問
多くの医療機関の顧問を歴任
開業に関するコンサルは70ヶ所以上
在宅医療に関するDVD
著書「コップの中の医療村」
2017年APECに参加
年間100本ほどの講演を行っている。