在宅医療最前線6/5トラブルは初動が大事

中村 哲生(医療法人永生会 特別顧問)

2024-06-05

 在宅医療を行っていると一定の割合でクレーマーが登場します。
と言ってもそんなに多いい訳ではありませんが当法人の在宅患者2000名ほどで年間1~3件程度何かが起こります。
元々地域からブラックリストとなっている方もいます。0.0005~0.0015%と非常に少ない割合ではありますが、
こういうケースは例え年間1件しか無くてもとてもエネルギーを使います。

 もちろんこちらのミスによるクレームも有ります。こういうクレーマー気質の患者ですから医師も看護師も、
事務員に至るまで細心の注意を払っておりますがそれでもトラブルが発生いたします。
また連携先の薬局や老人施設、訪問看護ステーション、ケアマネージャーさんと患者さんとのトラブルから
こちらに派生する事も有ります。

 クレーマーとは関係なく大小のインシデントは起こります。インシデントレポートは必ず目を通すようにしています。
大抵の場合はトラブルにならないインシデントが殆どですがレポートを見て場合によっては患者、
その家族への対応の方法を院内で話し合ったり、カルテの記載方法を検討したりします。
万が一、将来トラブルへと発展してしまった時の事を考えて、きちんと患者への説明内容をカルテに記載する事を指導します。
勿論どの患者にたいしても必要な事では有りますが、稀に患者とその家族のパーソナリティーに問題がありそうな方へは
より厳重にチェックをします。カルテは複数の人間でチェックするようにし、訴訟になった時の事も想定しています。

 表題にも書きましたが初動の対応を誤ると、収拾がつかなくなります。
現場の医師や看護師がその場をつくろうような発言は禁物です。クレーマーに対してはそのクレーマーの発言を
良く聞く事が大切です。クレームの内容が1つなのか、複数なのか、こちらのミスなのか、それとも理不尽な要求なのか
ちゃんと聞いてその内容を正確に紙に落とす事です。うる覚えで対応する事はNGです。
相手の言葉の意味をちゃんと理解して、何を要求しているのかを理解しなければなりませんが、
相手も感情に任せて怒っているようで意外と本心の要求を言ってこない事が多いです。
むしろ医療法人側から提案させるよう誘導するような物言いをする人が多いです。反社会的な方同様に「誠意をみせろ」
とか「俺の言いたいことは判るよな」などお金を要求するような事案もあります。

 診療中のトラブルには一人で判断しない事が大事です。院長や事務長などに正確に報告しその対応方法を内部で検討、
場合によっては外部の専門家や弁護士などにも相談するケースがあります。特に外部に相談する時にはきちんと時系列で
説明できるような資料を作成しておくことが大事です。正当なクレームなのか、医療的な問題なのか、
家族との意見の相違なのか、説明の仕方が不適切だったのか、金員を要求しているのか、理不尽な要求なのか、
しっかりとレポートする事で原因が判って来ることもあります。レポートを作成する事でこちらのミスが見つかる事もあります。
一番大切なことは客観的に冷静に分析する事ですが当事者となってしまった場合、
些細なミスを隠すがために大事になる事があります。またその一度の小さなミスによって突然始まったトラブルでは無く、
実はそこに至るまでには少しずつ細かなミスが積み重なって感情の縺れが鬱積した結果トラブルになっていたという
ケースも有ります。マグマのように溜まったストレスが一気に爆発したという事です。
このようなケースでは担当を変える事で簡単に解決する事もあります。

 最近では松本人志さんと文春による報道を巡り吉本興業の対応は初動ミスのお手本のような出来事でした。
本人の言葉を鵜呑みにしてそのままコメントしてしまった事です。報道されている他の芸人さんなど関係者への
ヒアリングを怠り専門家への相談も行わないまま「事実無根」と言ってしまった事が後々の対応を苦しいものとして
しまいました。何よりも会社への信用、信頼を大きく低下させてしまったのでは無いでしょうか。
タレント一人の責任でなく、会社として対応を間違ったという事になります。この例で行くと吉本興業は医療法人、
タレントは医師という立場に置き換えると良いかもしれません。

 一方の文春の方は報道を見ている限り裁判になる事を想定してかなり事前準備をしていたようです。
この辺りは連日テレビで色々なコメンテーターがお話ししていますので今更僕が何かを言う事ではありませんが、
とても勉強になりました。

 昨今、自動車業界ではダイハツが認証申請において不正をしていた事が発覚して大問題となりました。
出荷停止となりその後も子会社、孫会社などの対応など、問題は続いていました。
親会社であるトヨタは謝罪会見を行いました。その会見の豊田章男会長の発言はお見事でした。
また年を明けてトヨタ、ハイラックス、ランドクルーザー等も同様に出荷停止となりました。
しかし年末の記者会見の効果でしょうか、マスコミの扱いは事実の報告程度であり大騒ぎにはしていませんでした。
株価にも大きな影響は無かったようです。事件的には吉本興業の松本人志さんの事よりも、
トヨタの方が遥かに世界中に与える影響は大きいものですがマスコミの取り扱いの大きさは松本人志さんの方を
大きく取り上げています。この辺りが初動の対応によって結果が大きく変わったわかりやすい事例なのでしょうか。

 医療法人に限らずクレームの対応の仕方によっては災い転じて福となる事も有ります。
 この2つの案件は私にとってもトラブル発生時は初めの対応が重要だという事を肝に銘じた案件です。



【執筆者のご紹介】
中村 哲生(なかむら てつお)
1965年生まれ
医療法人永生会 特別顧問
多くの医療機関の顧問を歴任
開業に関するコンサルは70ヶ所以上
在宅医療に関するDVD
著書「コップの中の医療村」
2017年APECに参加
年間100本ほどの講演を行っている。

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