ことわざには「人の振り見て我が振り直せ」というのがあります。文字通り他人の行動を見て良し悪しを見極めて良い事は真似をして悪い事は改めるという意味です。他人の欠点を指摘するのではなく、気づきによる改心や向上心の継続に目を向けるということわざです。こんな良いことわざが日本にはあるのですが、診療所の現場では同じ過ちが繰り返される事があります。どちらかと言うと歴史は繰り返すということわざなのでしょう。
さてなんの事でしょうか?在宅医療の現場ではクリニックで雇用されている院長が退職をしてすぐ近くで開業し患者やスタッフを連れて行くというような行為が繰り返されてます。これまでも在宅医療の歴史ではあちこちでこの現象が勃発しています。雇われてノウハウができ、自分もこの方法で開業をしたい。開業するに当たりスタッフが必要だから今のところの従業員を引き抜こう。開業してもすぐには患者がいないし、スタッフのお給料も支払わなくてはいけないから、今、目の前の居る患者を連れて行こうと考える先生の考え方は普通の出来事なのかもしれません。
雇っている側の医療法人からすれば飼い犬に手を噛まれたという状況です。ノウハウを取られ、スタッフを取られ、患者も取られる。そして人を募集する時間とお金がかかり、その間は増患する事も出来ず、また人を教育するというとても迷惑な話しです。
さて、踏んだり蹴ったりの医療法人が取る次の行動は弁護士を依頼して訴訟を起こすという流れです。これまでも何度もこの光景を見てきました。弁護士からは損害賠償請求という事で連れて行った患者の未来の売上2年分やその他慰謝料などの請求をします。そしてその間の新規で開業された医師の診療報酬や介護報酬の仮差押えをします。裁判が終了するまでの期間は相手に対して兵糧攻めになります。その期間は2年くらいかかります。
被告の医師は開業してから2年間も兵糧攻めにあっては溜まったものでは有りません。こんな姿をみていた他の医師はなるほどこういう事になるのだなと学習をするようです。自分がもし将来同じ事をしたら訴えられるとインプットされます。そういった見せしめのような意味も込めて体力のある法人は訴訟に踏み切ります。まして院長という職位であれば医療法人の理事ですので背任行為という事になります。
しかしこういった状況を見たにも関わらず別の医師が全く同じ事をしてしまいます。喉元過ぎれば熱さを忘れるという事でしょう。1年もたつとそんな事は忘れてしまうようです。まさに「人の振り見て我が振り直さない」周囲からは「前の先生の事を見ていただろうに何でだろう」と頭を傾げていました。
歴史は繰り返すとは過去の出来事が似たような形で繰り返されるとい考え方です。人間の愚かさや社会(医療を取り巻く環境)の構造的な問題が解決されない為に同じような過ちが繰り返されてしまうようです。本来であれば歴史を学ぶことで未来を予測したり、同じ過ちを繰り返さないように教訓を得るという事なのでしょう。
カールマルクスさんは歴者繰り返す。最初は悲劇として、二度目は笑劇として、過去の亡霊を呼び出し、その由緒ある衣装に身を包み、借りものの言葉を演じると言っています、確かに二度目は笑劇です。衝撃的な笑劇です。周囲の目も冷ややかでした。
それでは今回も謎かけで終わろうと思います。
歴史は繰り返すとかけまして
フットマッサージとときます
その心は
又した(股下)懲りない(凝りない)
おそまつ様でした。

【執筆者のご紹介】
中村 哲生(なかむら てつお)
1965年生まれ
医療法人永生会 特別顧問
多くの医療機関の顧問を歴任
開業に関するコンサルは70ヶ所以上
在宅医療に関するDVD
著書「コップの中の医療村」
2017年APECに参加