クリニックに1本の電話が鳴りました。聞けば先月お亡くなりにありましたAさんの娘だと言います。Aさんのお宅へは10カ月間ほど訪問診療をしていました。Aさんと同居していたのは長男さんです。先生も、ケアマネージャーさんも訪問看護師さんもこれまでキーパーソンの長男さんとやり取りをしていました。
長男さんと協力してほどなく看取りをしたはずでしたがその1ヵ月後、これまで1度も姿を現さなかった、医療にも介護にも全く協力をしていなかった長女という人物から突然の電話連絡。そしてその電話の内容はカルテを開示して欲しいという事です。どうやらこの長女、ケアマネージャー、訪問看護ステーションへも情報開示を求めてきました。電話から1時間もしないうちに診療所へやって来てカルテを開示するように言いに来ました。一応カルテ開示の為の書類をお渡しして患者様との関係性が判る書類の提出を求めてその日はお引き取り頂きました。
突然の事で一応 こちらも担当医師、院長、看護師とカルテの中身を確認しましたが特段何か問題が有りそうなカルテではない事が判りました。クリニックにお越しいただいたので院長と私で軽く長女様へヒアリングをいたしました。どうやら長女さんは「長男さんがA様に対して虐待をしていないか」を確かめたいようです。訪問看護ステーションへもケアマネージャーさんへもそれを確認したいようです。
長男のミスになるようなものの証拠集めが目的です。そうです感の良い皆様はもうピンと来ているでしょうが遺産を巡って、相続などで何か揉めているのかなぁと、こちらは勝手に思っています。
どうもこの手の話は良く有るようで同居している長男と別居している長女、このパターンが最も揉める可能性が高いようです。「思ったほど財産が無かった」「長男が遺産を隠しているのではないか」「介護など日常生活の両親への貢献度の違いから法廷相続の分配では納得がいかない」「財産は不動産しか無く、同居中の長男に家の売却を求める」「兄弟の配偶者が入ってくる」など色々なケースがあります。
医療機関としては内容に踏み込む事はしません。書類が揃えばカルテ開示はします。その後の揉め事がどのように展開するのかは知る余地もありません。終了したはずの患者さんの亡霊ですね。もちろんこれまで介護を頑張ってきた長男さんに勝ってほしいなという気持ちもありますが、淡々と事務的にカルテ開示を行います。
それでは本日のなぞかけは
家族間のトラブルとかけまして
胃炎とときます
その心は
遺産(胃酸)の問題かな こんな謎かけで〆させて頂きます。

【執筆者のご紹介】
中村 哲生(なかむら てつお)
1965年生まれ
医療法人永生会 特別顧問
多くの医療機関の顧問を歴任
開業に関するコンサルは70ヶ所以上
在宅医療に関するDVD
著書「コップの中の医療村」
2017年APECに参加